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第291話
タクシーに乗り込んで、住所を告げながら、泣きじゃくる希の頭を抱きしめた。
運転手がチラチラとバックミラー越しで見ていたが、そんなことはどうでもよかった。
車を降りてからも泣き続ける希の手を“大丈夫だ”と無言でぎゅうっと握りしめる。
エレベーターの上昇の時間ももどかしく、焦りながら鍵を開け、子供のように、しゃくり上げて泣く希の手を引いてソファーに雪崩込むと、思い切り抱きしめた。
どれだけ泣いてもいい。
俺の前でだけ泣けばいい。
お前は捨てられたんじゃない。
愛されていたんだ。
そして、今もこれからもずっと。
俺が、命の限りお前を愛し続ける。
だから、安心して俺に委ねろ。
俺を愛してくれ。
そんなような意味のことを希の耳元でささやき続けて…希が泣き止んだことに気が付けば、外は見事な茜色に染まっていた。
「…斗真…ありがとう。もう、大丈夫だ…」
真っ赤に泣き腫らした目をして微笑んだ希に、そっと唇を合わせ
「タオル持ってくるから待ってろ」
と言い残し、保冷剤を包 んだタオルを用意してくると手渡した。
希はそれを目元に当て、「ありがと」と小さな声で言った。
そして、ぽんぽんと頭を撫でてキッチンへ行こうとする俺の腕を掴み
「…もう少し…側にいてくれないか?」
と強請ってきた。
「喜んで」
と返した俺に、目元を隠したままで抱きついてきた希は
「斗真…本当に…ありがとう…」
と、俺の胸にくるまるように擦り付いてきた。
希を抱きとめて髪の毛にキスをすると、顔を上げ甘えてくる。
ぽとりと二人の胸の間に落ちたタオルを放り投げ、それが合図のように噛み付くようなキスをした。
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