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第300話

「「ボス、有休ありがとうございました!」」 「お帰り、遠藤君と遠藤君。 何だかややこしいなぁ…フルネームも呼びにくいし… 会社では元のまま別姓にする?」 「あー…そうですよね…斗真、どうする?」 「希がそれでいいなら俺は何でもいいけど。」 「おいおい、ここでイチャつくのは止めてくれよ。 …じゃあ、いい呼び名が浮かぶまでは今まで通り、旧姓でいいか、影山?」 「ええ、何でもいいです。本当は『遠藤』って呼んでほしいんですけど。」 「何さり気なく惚気てんの?ヤダなぁ、新婚さんはこれだから。 じゃあ、その件はそれで。 ところでさ、矢田のことなんだけど。」 その名にびくっと反応した。 希はその名を聞いただけで、毛が逆立つくらいに殺気立っている。 おい、希、落ち着け。 ボスは俺達の反応を見ながら 「僻地に飛ばしてやるって言ってたんだけどさ、アイツの業績も中々のものだったからね。 幹部と協議の結果、ロンドンに行かせることになった。」 「「ロンドン!?」」 「刑事事件にという声もあった。 辞職させてもよかったんだ。 でも、影山達の意向を汲んで、そうはしなかった。 『もう、日本には戻らない。』 これは本人の口から約束したことだからね。 あ…冠婚葬祭は別だよ。 一応親御さんも健在だから。 本社の幹部が全部事情を知っているから、出世コースからは完全に外れたけどね。 『二度と遠藤と影山には接触しない』って念書も書かせたから。」 「…戻ろうと思えば、戻れる距離じゃないですか。 俺は…やっぱり許せない…」 「希…もう、いいじゃないか。 憎しみの連鎖を切らないと。ずっとこのままだぞ?」 「斗真、お前、それでいいのか?」 「だって希が守ってくれるんだろ?」 俺たちのやり取りをボスは黙って聞いていた。

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