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第305話
白川さんの、落ち着いたアルトの声音にホッとした。
甲高い女性特有の声は苦手だ。
「俺達二人とも、上半身は首、肩、腕と背中。
下半身は膝から下でお願いします。」
と、すかさず希が言ってくれた。
のーぞーみー…ナイスセレクト!
俺はもう既に帰りたくて、腰が浮きかけていたのだ。
いくらエステティシャンとはいえ、初対面の、それも女性に身体を触られることに、かなりのストレスを抱えていたから。
希を見ると『これでいいか?』と言いたげに見つめているから、うんうんと頷いて笑ってみせた。
それを見て希もホッとした顔をしていた。
もう、まな板の上の鯉状態。ここまで来たら、もう抵抗はしない。
隣に希がいるから我慢できる。
仰向けになり目を瞑る。
白川さんが、このパックの成分がどう とか、どんな効能があって とか、いろいろと説明してくれるのだけど、俺は全く興味がなくて「はぁ」とか「へぇ…」しか返していない。
施術が始まった。
ジェルみたいなのをぬたくられて、マッサージされる。
何だか…気持ち悪い。
希以外の手がこんなに不快感を催すものだとは思わなかった。
俺も大概アイツにやられてるな。
ひんやりとしたもので覆われてパックされている間に、首、肩、腕…とこちらもマッサージ。
オールハンドと言われるらしい、ここのエステはかなりの評判で、式を挙げる人達以外の一般客も利用しているんだとか。
確かに…
さっきまで不快でならなかったのに、肩を解される頃になると、だんだんと気持ちよくなってきた。
そういえば肩凝りもあったしな…
とかなんとか考えてるうちに、睡魔に襲われた。
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