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第307話

隣の部屋に案内されて、普通のミネラルウォーターの他に、ライムやレモンの入ったフルーツウォーターやハーブティーが用意されていた。 「斗真、何飲む?」 「んー…そのレモンのやつ。」 甲斐甲斐しく世話をされて、何だか小っ恥ずかしい。 「…希…」 「んー?何?…はい、どうぞ。」 希はいそいそと俺の前にグラスを置いて、横に座った。 そっと髪の毛を掻き上げられて、頬に手を当てられた。 「…そんな色っぽい目をして誘わないで。」 「はあっ!?『色っぽい』!? 何?それ。そんな目してないから! げ・ん・か・く!幻覚だから、それ!」 「だって、斗真…目、ウルウルしてて、肌も唇もプルップルで、イイ匂いがして… 誘ってるとしか思えない…」 「ばかっ! エステの後で、おまけに寝起きで…お前だって一緒だろっ? とにかく、誘ってないから。」 ぎゃぁぎゃあと押し問答していると、ノックの音が。 これ幸いに「どうぞ。」と答えると、失礼します、と入ってきたのは遥さんだった。 「長時間お疲れ様でした。いかがでしたか? あ、水分はたくさん取って、今日はできるだけゆったりと何もせずにお過ごし下さいね。」 「そうですよね、さっき白川さんもそう仰ってたし。」 俺はそれを聞いてそれ見たことかと希を睨んだが、どこ吹く風の希は、あらぬ方向を向いて無視した。 「この部屋は遠藤様専用にしてありますので、どうぞごゆっくりなさって下さいね。」 「ありがとうございます。何だか…すみません、俺、ぐっすり寝てしまって…」 「いえいえ。リラックスしていただけて本当によかったです。 …後はお式当日…それまでに何か心配事等ございましたら、遠慮なさらずにご連絡下さい。」 「はい、ありがとうございます。」 遥さんはにっこり微笑むと部屋を出て行った。

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