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第328話

鏡の横のポールハンガーに、俺達がこれから着るタキシードが掛けられて、その足元には白の革靴が二足。 その隣に置かれた蓋の空いたチェストには白い手袋とポケットチーフが置かれていた。 チェストと反対側に置いてあるテーブルには、ブーケがそっと置かれており、それは、俺の希望通りの花がバランスよく、美しくコーディネートされていて、ホッとした。 他のテーブルには、いろんな種類の白い花で飾られた花瓶がいくつも置いてあって、それらのものを目にした瞬間 『あぁ、本当に結婚するんだ』 と、しみじみと感じ入ったのだった。 ちょっと感動して、うるっときた俺の手を希がそっと握ってきて 「斗真…今から本当に結婚式するんだな…」 と感極まった声で言うもんだから、溜まっていた涙がポロリと零れ落ちてしまった。 「斗真?」 俺の涙にオロオロしながら、その涙の跡をそっと拭ってくれた希に 「悲しいんじゃない。後悔でもない。 本当にお前と結婚式挙げるんだ って思ったら感動して…」 うぐっ! 「斗真…一生、いや、生まれ変わっても大切にするよっ!」 と抱きしめてくるもんだから、力一杯腕を突っ張って拒否してやった。 「ばかっ!盛るなっ!みんな見てるだろっ!」 くすくす笑う遥さんに揶揄われる。 「いいじゃないですか。独身最後のハグですよ。」 調子に乗って抱きしめようとする希を睨みつけていると、遥さんに 「そろそろ着替えを始めましょう。 お手伝いさせていただきましょうか?」 「いえ、大丈夫です。」 と二人とも丁寧にお断りして着替えを済ませた。

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