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第338話
バカ野郎。
勝手に煽って自己完結するなよ。
半勃ちの俺自身を何とか宥めつつ、少々不貞腐れ気味の俺は黙って食器を片付け始めた。
「とーまぁ?どーした?」
猫撫で声で希が後ろから抱きついてきた。
「危ない。
食器割れるから離して。」
俺の不機嫌さに思い当たる節があったのか、希は「ごめん」と一言だけ言って、すぐに身体を離した。
イライラを鎮めようと大きく深呼吸する。
あんな素敵な時間を過ごした後なのに、こんなのは嫌だ。
勝手にその気になった俺が悪いんだ。
『勝手に怒ってごめんなさい』って素直に言えるかな…
もう一度大きく大きく息を吸い込んで…吐く。
何度か繰り返すうちに少し落ち着いてきた。
あ…コーヒーの香り…
希がダイニングテーブルで準備してくれていた。
片付け終わって希の側に行くと、希が俺を抱き寄せた。
「斗真、ごめん。
言い訳しないから謝らせて。」
「…俺こそ…勝手に怒ってごめん。」
こつんと額を合わせて謝っているうちに、何だかおかしくなって笑い出した。
「ほら斗真、せっかくコーヒー淹れたのに冷めちゃうよ。
ほら、お菓子も!」
「…うん。いただきます。
…このマドレーヌ、さっぱりと爽やかでしっとりして美味しい!
ん…レモンピールが入ってるからだな。
バターの風味もしっかりしてる。」
「あぁ。こっちも美味いぞ。
抹茶のパウンドケーキ!これなら甘い物が苦手な人でもイけるな。
ボスが好きそうな味だ。
予約しといてボスに届けようか。随分と取り計らってもらってるからな…」
「それいいな。後で遥さんにお願いしよう。」
甘い物補給で、俺の機嫌はすっかり直っていた。
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