412 / 1000

第412話

「いやぁ、びっくりしたよな。 あんな所で凛ちゃんに会って、相沢さん達とも仲良くなれるなんて。」 「うん。そうだ… あーーつ!思い出したぁっ!」 「うわっ、希、何っ!?」 「思い出したよ!どっかで見たことのある顔だと思ってたんだ! あの人、知る人ぞ知る超が付く腕の立つ料理人だ… 数年先まで予約で一杯で、それも高級官僚や社長クラスのセレブと呼ばれる人達ばかりでさ。 一般庶民は足を踏み入れることのない、程遠いお店なんだよ。 そんな人と知り合いになれたなんて…ましてやお家に誘われたよな… うわぁ…すっげぇーっ!」 「そうだったんだ…だから『小さな店のオーナー』って言ってたんだ… 小さくないじゃん!」 「確かに、一日一組限定だからな。店構えは小さいに違いないが… いやぁ、今度お家に行く時が楽しみだなぁ。」 興奮を隠せない希と俺。 橘オーナーのご厚意で思わぬ出会いとなった。 こうやって、見知らぬ人との(えにし)がむすばれていくんだな… その時ふっと、矢田の顔が浮かんだ。 あんなことがなければ、同期のいいライバルとしての付き合いが続いていたんだろうに。 もう、二度と会うことはないだろう。 俺たちがそう望んだんだ。 切れた縁と新たに結ばれる縁。 俺達は、幾重にも絡まる見えない糸の繋がりの中で生きていく。 希ともそうだ。 『赤い糸』と言うけれど、最初から絶対に希と俺とで強力に繋がっていたんだ。 だから一旦離れて(もつ)れて…絡まり、切れそうになっても、こうやって一緒にいることができるんだ…

ともだちにシェアしよう!