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第418話

「斗真、斗真っ!ごめん、何で?どうして? 待ってよ。何処に行くの?待ってよ!」 希が何を言っても無視して、携帯と財布を掴むと玄関へ大股で歩いて行く。 真っ裸の希はオロオロと俺を追いかけてくる。 「斗真っ!」 無言で靴を履いて振り向きもせずドアを閉めた。 ザマーミロ。 その姿ではすぐに追いかけてこれないだろ。 そのまま部屋を一歩でも出たら、猥褻罪で捕まるからな。 丁度階数で停まっていたエレベーターのボタンをバシッと叩き、直ぐに『閉』と①のボタンを手荒に押した。 ウィーンと静かな音を立てて降下するエレベーターの中で、これから何処へ行こうかと迷っていた。 勢いよく飛び出してきたはいいものの、行く宛がない。 さっき美味しいコーヒーとスイーツをご馳走になって、腹は満たされている。 車の鍵も置いてきたから気晴らしにドライブなんてのもできなかった。 くそっ。 鍵も持ってくりゃ良かったな。 一階に着いて隣基の階数表示を見ると、俺達の階で停まるところだった。 ヤバい。 ここから出なけりゃ捕まる。 慌ててあてども無く、取り敢えず大通りに出ようと右に走り出した。 途中振り向いたが、まだ一階に着いてないらしい。 ダッシュで通りに出ると人混みに紛れて歩き出した。 こうなったらもうわからないだろう。 一安心して流れに逆らわず、その早さに合わせて歩いて行く。 家族連れ、カップル、仲間同士… 誰かと連れ合う人達ばかりが目に入る。 こんな時は余計に目に付くのか。 歩きながら考えた。 何に腹が立ったんだろう。 今頃、濃密な時間を過ごして、蕩けるような快感に身を委ねて愛し合ってたはずなのに。

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