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第419話

そうだ。 アイツが『かわいい』とか『美人』とか、ぬかしやがるから。 それって女子供に対する褒め言葉だろ? いくら組み敷かれる受だからと言っても… 俺は紛れも無い男だ。 希と同じモノだってちゃんと付いてる。 その俺に『かわいい』『美人』はないだろう? ひたすら歩きながら考える。 そうか……俺は対等でいたかったんだ。 毎日のように散々啼かされ、喘がされ…希の全てを受け入れている… 微かに残る男としての小さなプライドが、それらの言葉を無意識に拒否したのか。 希は何も考えてないはず。 俺を下に見てるとか、オンナだと思ってるとか、そんなことは一切ないと思う。 俺に対する素直な気持ちを口に出してるだけだ。 俺だけが腹を立てて…何だか情けなくて泣きそうになってきた。 散々歩いて出た結論に『これっくらいで喧嘩するなんて馬鹿みたいだな』と思いながら、喉がカラカラになってることに気が付いて、キョロキョロと喫茶店を探しながらゆっくりと歩く。 しばらくすると、店の前に、手入れの良く行き届いた植木鉢が並ぶ喫茶店が目に付いた。 小さな黒板に『Open』の文字を見つけ、躊躇いながらもドアを開けた。 「いらっしゃいませ。」 心地良いテノールとアルトの声が出迎えてくれた。 「お好きな所へどうぞ。」 ぐるりと見渡してから、奥の窓際の、木漏れ日が当たるスペースを選んだ。 取り敢えずアイスコーヒーを注文してからメニューを見ると 『自家製ケーキ:今日のおススメは紅茶のシフォンケーキ』 の文字が飛び込んできた。 うおっ! でも、さっき食べたし、冷蔵庫にもお土産があるし、でも、でも… 「すみませーん!今日のおススメのケーキもお願いします!」 カロリーオーバー…いや、今めっちゃ歩いたから帳消しだ。 必死で自分に言い訳をして慰めた。

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