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第420話

出された水を一口飲んで、大きくため息をついた。 俺ってガキなんだな。 『女みたいに扱うな』って一言伝えれば済むことなのに。 不貞腐れて家を飛び出して、足が痛くなるほど歩き倒して。 オマケに、甘い物の食べ過ぎは良くないとわかっていても、自制が効かなくて食べてしまう。 店内を改めて見渡すと、年配の(きっと夫婦だろう)男性の方がコーヒーをサイフォンに落とし、女性がケーキをセットしていた。 客層は…奥にサラリーマン風の男性が携帯を触りながらコーヒーを飲み、未満児連れのママ友達が(ダンナは留守か?)ケーキをパクついている。 カウンターには常連客らしき人達が陣取って、時々笑い声も聞こえる。 ゆったりと流れるのはサティのピアノ曲で、さっき翔さん達に連れて行ってもらった所も良かったが、ここもなかなかイイ感じで、 “一人じゃなくて希と来たかったな” なんて思うと、また泣きそうになる。 俺って、どれだけ希のことが好きなんだろう。 勝手に腹を立てて出て来たのは俺なのに、希に会いたくて触れたくて、抱きしめてほしくて堪らなくなってる。 希に会いたいな… 「お待たせしました。 アイスコーヒーと今日のおススメ 紅茶のシフォンケーキです。 ごゆっくりどうぞ。それからこれも。」 小さな小皿に何か乗っているのに気付いた。 「あの…これは?」 「これも手作りのクッキーです。 大きなお世話かもしれませんが、お客様、何だかとてもお辛そうだったので… 自分で言うのも何ですが、すっごく美味しいので、よければ召し上がって下さい! ちょっぴり元気になりますよ!」 人の良さげな老婦人がにっこり微笑んだ。

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