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第430話

いや、違う… 俺が希を精神的に“抱く”んだ。 アイツの弱いところも汚いところも全て、何もかも引っくるめて…俺が“抱く” そう、慈悲深い『女神』のように。 全て受け止めて…昇華させる。 なーんだ。 こんな簡単なことに気付かずに、家を飛び出したのか。 ふふっ。 俺もバカだなぁ。 駄犬にはバカがお似合いか。 『俺は希を愛している』 それだけでいいんだ。 そう思ったら、何だか身体中の力が抜けた。 自惚れかもしれないが、きっと、俺が思ってる以上に、希は俺を盲目的に愛している。 まるで底なし沼のような愛。 その沼にどっぷりと浸かっている俺は、二度と抜け出せないのだ。 あーあ…逆らっても無駄ってことか。 がちゃっ 希が出てきた。 一直線に俺の元へ駆けてきて、ぼふっと抱きついてくる。 「…おい、ちゃんと乾かしてこいよ。 まだ濡れてるじゃないか…」 いやいやと首を振る希は 「やだ。斗真にくっ付きたいもん。」 と、譲らない。 仕方なくそのまま抱え込んで、脱衣所に行くと、問答無用でドライヤーを吹き掛けた。 「斗真、ひどっ! ちゃんと優しく扱ってよ!」 「うるさい。黙ってろ。」 髪の毛を整えてやり、鼻をつまんで 「ベッドに行くぞ」 と呼び掛けると、途端に元気になって、俺を横抱きにすると、いそいそとベッドルームへ運んでいった。 駄犬が雄の肉食獣に変わっていく。 王者のオーラを纏い始めた希を俺はじっと見つめていた。 カッコいい…どっちが本当の希なんだろう。 俺の視線に気付いた希が、鼻先に一つキスをする。 ゆっくりと横たえられ、二人分の重みが加わったベッドが、ぎしり…と鳴った。

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