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第442話

俺を覗き込む希の瞳が揺れている。 「でもお前、それで嫌な気分になったんだろ? 我慢するな。 嫌なことは嫌だと言え。」 あぁ…俺の伴侶は、どうしてこうも俺のことをわかってるんだろう… 「…忘れてたのに。 襲われたあの日のことがフラッシュバックして…怖くって…早くお前に会いたくて… でも、『大丈夫、大丈夫』ってコーヒー飲んで気持ちを落ち着かせて、頑張ったんだ… そしたら、お前が思いがけず早く帰ってきてくれて…希をチャージ出来たから、もう大丈夫だ…ありがとう…」 「斗真、辛い時に側にいてやれなくてごめんな…」 「希のせいじゃないから、謝らないでくれよ。 俺が弱いから…乗り越えられないから…」 希は俺をそっと抱きしめると 「斗真、それは違うよ。 お前のせいじゃない。 あの出来事は、お前のせいじゃない。 自分を責めるな。 …無理に乗り換えようとしなくていい。 俺が、俺がいるから。 お前がずっと笑っていられるように、俺が側にいるから。」 希の肩口に頭をつけると、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。 また希が、ゆっくりと俺の中の足りなくなった部分を満たしてくれる。 ぱっくりと開いた傷口が徐々に塞がっている。 くいっと顎を持ち上げられ、希の視線とカチリと合った。 あ…キスされる 唇が優しく触れた。淡い初恋のようなキス。 しばらくすると、口を開けろ とでも言うように、舌先で唇をノックされた。 待ち兼ねたように口を少し開くと、熱い舌がぬるりと入ってきた。 ぐるぐると追いかけっこをするように舌を絡ませて、どちらの唾液か わからぬほどに混じり合ったものを嚥下し、ひたすらに口内を貪りあった。

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