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第450話
ふわりと漂うフレグランスと戻ってきた温もり。
「…斗真?」
目元に口付けられて、そっと目を開けると、目の前に心配そうな夫の顔があった。
親指で拭われたのは…涙。
あれ?俺、泣いてたのか?
「どこにも行かないから…大丈夫。
お前の側には、俺が必ずいるから。」
肩を抱かれ、頭を撫でられる。
たったそれだけの行為に心癒される。
急にザァーーッと窓ガラスを叩きつける雨音が聞こえ、雷がどこかへ落ちたようだった。
次々とガラスを流れ落ちるその音を黙って聞いている。
このまま…
全てを洗い流してくれ。
俺の弱い心も、逃げる心も。
俺は、この愛する夫と真っ直ぐに歩んでいく。
目の前にどんな障害があっても、希が一緒ならば乗り越えていける。
負けない。
もう、矢田の幻影に、あの時の恐怖に怯えない。
希の、この温もりが俺に勇気を与えてくれる。
肩に抱かれた腕に力がこもる。
ふと視線を上げると、希のそれと かち合った。
自然と近付く唇。
啄ばむようなキスを繰り返し、段々と頭の芯まで痺れてぼぉっとしていく。
もう、何も考えられない。
唇が触れ合うだけのキスでこんなになるなんて。
触れたところから希の想いが雪崩れ込んできて、泣きそうになる。
両手で頬を固定されて、濃厚なキスに変わってきた。
侵入してきた舌先が、生き物のように口内を動き回り息が上がってくる。
窓の外からは叩きつけるような雨音が聞こえる。
「の…んぐっ…ぞみ…」
息絶え絶えになりながら呼ぶ、愛おしい名前。
時折溢れる唾液を希が啜り上げる。
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