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第453話
…浮上していく意識…すごくいい匂いがする…
カーテンの隙間から漏れる光が眩しくて、数度瞬きした。
希?
隣で俺をくるんでいたはずの温もりがない。
まだ少し腰に違和感があるが、ゆっくり起き上がると希を探しに行った。
「希?」
キッチンから美味しそうな匂いがする。
途端に、ぐうっ とお腹が鳴った。
「斗真、おはよう!
起きれたのか?腰はどうだ?」
「おはよう。
まだ少し変だけど、昨日よりはマシだよ。
いい匂いで目が覚めた。
美味そう…お腹鳴ってるよ。」
ははっ と笑った希は
「じゃあ、ご飯にしようか。
弁当も作ったから、お昼はそれ食べて。
夜は帰ってから作るから気にしないで。」
「希…ヨメだ…完璧。」
「ヨメ…はお前だろ?はいはい、まぁ、いいや。
…ご飯は大盛り?…はい、どうぞ。
お汁は?…はい。お代わりあるよ。
いただきます!」
「至れり尽くせりありがとう!
いただきます!
うまーーい!希、天才!主夫の鑑!」
「褒めてもこれ以上何も出ないぞ。
腰痛体操しながらゆっくり休んで、早く治して。
それと」
ちょっと間を置いて、俺の目をじっと見つめた。
「少しでも気分が落ちたら、俺に連絡すること。
いいな?」
泣きそうになった。
涙の膜がゆっくりと張ってくる。
「…うん。わかった…ありがと、希。」
慌てて目をぐいっと擦ると、ご飯をかっこんだ。
「じゃあ、行ってくるから。斗真、いい子で待ってろよ。」
「仕事任せて申し訳ありません、遠藤チーフ。
よろしくお願い致しますっ!」
ははっ と笑った希は、ちゅっと鮮やかなリップ音を残して出て行った。
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