456 / 1000

第456話

やっぱり…希だ。 「もしもし」 「とぉーーーまぁーーー! すぐ、すぐ帰るからっ!待ってて!」 「慌てなくていいから。気を付けて帰って来いよ。 もう、ご飯準備してるから、買い物も何もしないでいいよ。」 「俺がするって言ったのに…ありがとう、斗真。 お前、腰、いいのか?」 「うん。大丈夫だよ。ボチボチやってるから。 今日はハンバーグだぜ。」 「うおっ!お腹空いてきた… 何かほしいものないか?買って帰るぞ。」 「いや。何もないよ。」 「…ケーキは?」 「うっ…この間から食べてばかりだし、家にいて動いてないから我慢する。」 「そうか。わかった。 じゃあ、このまま直帰するよ。」 「うん。待ってる」 「愛してるよ、斗真。」 「ばーか………愛してるよ。」 ふふっと電話の向こうで笑う声が聞こえ、切れた。 それだけなのに、心がふんわりと温かくなった。 会いたい。早く会いたいよ、希。 俺のことばかり気にして。 少しは自分の心配もしろよ。 いくら出来る男だからと言っても、身体を壊したら何にもならないよ。 さぁ、気合いを入れてご飯の用意だ。 飛びっきり上手いやつ食わせてやるからな。 カーテンを閉めに窓に近づくと、日がほとんど落ちて、山際はオレンジに染まり、その上から群青色に変わった夜のとばりが降りてくる。 自然が作ったグラデーションの美しさにしばし見とれているうちに、真っ暗になっていた。 慌ててカーテンを閉めて、料理も最後の仕上げにかかっていると、玄関の鍵を開ける音がして、希が飛びついてきた。 「とーまぁー!ただいまぁーーーっ!」 「うわっ、希っ、危ないって。」 ぎゅうぎゅうに抱きしめられて、苦しいけれど心地良くて目を閉じた。 すんすんと愛しい夫の匂いを嗅いで安心する。

ともだちにシェアしよう!