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第529話

亜美さんはずっと泣き続けている。 俺は黙って彼女が落ち着くのを待っていた。 寝室から顔を出した希がそっと手招きをした。 音を立てないようにドアを閉め 「どうだった?」 「はあっ…俊兄、オロオロでさ…可哀想なくらい… 『亜美がいないんだよぉ〜』って、あっちも号泣。 お義父さん達、内緒にしてるみたいだね。 取り敢えず、こっちに迎えに来るって。 結局何だったんだろうな。 聞く前に電話切られたから、わかんないよ。」 「ごめんな、希。変な事に巻き込んで。」 「大丈夫だよ。とにかく、お風呂に入ってもらおうか。 …あれだけ泣いたら、顔ぐちゃぐちゃだろ…」 「鋭いな、希。じゃあ、ちょっと案内してくるよ。」 「ついでに、ご飯食べたか聞いてよ。 まだなら作るから。」 「ありがとう、希。」 サービスでちゅっとキスしてやった。 「…亜美さん、ご飯食べた?」 「…ぐすっ…まだ…」 「希がすぐ作るから、その間お風呂入ってて。 ね?」 「…ひぐっ…ありがと…」 バスタオルとハンドタオルを渡して、バスルームへ案内した。 「遠慮なく。ゆっくりしてね。」 こくこくと頷く亜美さん。 あーぁ…俊兄、大変だなぁ… キッチンに行くと、希がもう準備を始めていた。 「買ってきた食材、もう使っちゃったからさ、簡単なもんしかできないけど…」 「ごめんな、希。」 「いいから。謝るのナシ! あの調子じゃ、俊兄きっとぶっ飛ばしてくるぞ。」 「夫婦喧嘩は犬も食わないんだけどな。 あ…何があったのか親父に聞いてみるよ。 電話してくる!」 寝室に飛び込んで、画面をタップした。

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