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第531話

ため息をついて希を見送った後、しばらくして亜美さんが風呂から上がってきた。 「斗真君、ごめんね。」 「ううん。 何があったのか知らないけど、落ち着いた?」 「うん。ありがとう。 …あのね、喧嘩の原因はね… …子供のことなの。」 「…子供って?」 「…俊はもう一人ほしいって言うの。 でも私は…体力的にも精神的にも、三人目は辛くて… ほしいのは山々なんだけどね…」 「それで喧嘩?」 「いつもそうなの。それで実力行使に出ようとするから逃げ出すのよ… あ!ごめん!生々しいよね、こんな話。」 「俺だからできるんでしょ? いいよ、俺でよければちゃんと聞くから。 でもさ、亜美さん。 愛する人の子供を産めるって…女性だけの特権だよ。 俺は、どんなに希を愛してても…それは永遠に敵わない。」 その時、亜美さんがハッとしたような顔をして 「…斗真君、ごめん…」 と謝ってきた。 俺は首を振って 「亜美さんが謝ることはないんだ。 俺も…しばらくそれで、どうしようもなく落ち込んだこともあったんだ。 でも、希が…『斗真だけいてくれたらいい』って言ってくれて… 俺達みたいな同性カップルには、一生付き纏う問題だから… あ!もう、大丈夫だよ。 俺達の中ではもう解決してることだから。 …だからさ、兄貴の肩を持つわけではないけど、少しでも亜美さんが『産んでもいい』って思えるなら… 子供の笑い声が絶えない、賑やかな家にしてほしい。 勝手だけど、俺と希の分も…」 「…斗真君…」 「ごめん!亜美さん! 俺の思いを押し付けるつもりは絶対にないから! でもさ、俊兄ときちんと向き合って、話し合ったほうがいいよ。 だって…そういう行為は、子供を作るためのことではないと思うから。 それを作るためだけの“道具”にしてほしくないから。」 「…斗真君…ごめん、ありがとう…」

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