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第534話

俺も意外な言葉にびっくりした。 “あの”俊兄が、生まれてくる子供と…奥さんのために、神社にお参りに行っていた、そしてそれは、いまでも変わらず続いてるなんて。 俊兄は照れ臭いのか、そっぽを向いていた! 心なしか、耳が赤い。 俊兄が…照れてる!? 俺と希と亜美さんは、それぞれの思いで暫し俊兄の顔を無言で見つめている。 亜美さんの目は、潤み始めていた。 「っち。何だよっ!俺が願掛けに行くのがそんなにおかしいのかよっ!」 「…いや、そうじゃなくて…傲慢俺様の兄貴も人の子だったんだなって…」 「何だよ、斗真それっ!?俺を何だと思ってんの?」 「…傍若無人でやりたい放題のやんちゃ坊主…」 ぼそりと呟くと、ヘッドロックをかまされた。 「痛いっ!痛たたたっ!ごめん!離せって、痛い!」 慌てて希と亜美さんが俺達を引き剥がしてくれた。 涙目の俺は希に抱かれヨシヨシと頭を撫でてもらい、亜美さんは俊兄を羽交い締めにしていた。 「…ったく…人のことをバカにしやがって…」 「バカにしたんじゃないよっ! 兄貴がそれだけ亜美さんや子供のことを愛してるんだってわかって、俺は感動したんだっ! そんなことをするくらい、守る者ができたんだって…うれしいんだ。 俺も…俺だって、自分の命よりも大切な(ひと)ができたから、それは…すごくわかるんだ…」 俺を抱きかかえる希の腕をしっかりと掴み、振り向いて希を見た。 希は『わかってるから』というように、俺の目を見て頷き微笑んだ。 …その顔をその目を見て、俺は言いようのない安心感に包まれ、泣きそうになった。

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