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第541話
希を追い掛けて寝室へ入ると、既に封を切ってワインが注がれていた。
「飲まなきゃやってられねーよ。
何だよ、あれ。」
はい、と手渡されたグラスには、濃厚な香りを放つ深い赤い色が満たされていた。
「はい、乾杯!」
ひと口含むと、芳醇な香りが鼻を擽りながら抜けていった。
「…美味い…」
「だろ?今夜はこれを飲みながら、ソファーでイチャイチャして、程よく酔った斗真を美味しくいただくはずだったのに…」
「イチャイチャはいいけど…
『美味しくいただかれる』のはちょっと怖いな…」
「潰さない程度に、“スロー”も楽しみながら、エッチしたかったのにぃ…」
ごろごろと猫のように擦り寄ってくる希の頭を撫でて
「ごめん、兄貴まで乱入して…」
「いいんだよ。何だかんだ言っても、あの二人は愛し合ってんだから。
仲良しでいるのが一番いいんだよ。
上手いこと話、進めばいいな…」
「…うん、そうだな…」
俺は気になってたことを希に伝えることにした。
「なぁ、希。」
「ん?」
「俺、亜美さんに余計なこと言ったかもしれない。」
「???」
「『俺が産めない分、産んでくれ』って。」
希は黙って聞いている。
「もう、俺の中では解決してるんだよ?
希が『斗真だけいればいい』って言ってくれたから。
でもさ、何か…
産めるのに…求められてるのに…
ズルいっていうか…
多分“嫉妬”だと思う…
愛する人との命を生み出すことへの嫉妬。
こだわってるつもりはなかったのに。
すげぇ意地悪なこと言っちゃった。」
希はグラスを置いて、俺を抱きかかえた。
「何度も言うけど…俺には斗真だけでいい。
もし子供が一人いたら、俺の愛情は半分。
二人なら三分の一。
三人なら四分の一。
斗真、25%の愛情で我慢できる?
俺は嫌だ。
斗真からの愛情は100%、いや150%ほしい。」
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