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第550話

正直、何度口にしても美味しいとは思えない。 愛おしい伴侶の一部だと思うからこそ、飲み込める。 希の身体の一部を取り込んだ、子種を胎内に入れた、と思うと擬似妊娠というのか、不思議な感覚に囚われる。 いつまでもこんなことを考えていると希にバレたら、また叱られるから黙っているけれど。 俺にとってこの行為は、身体を繋げる直接の交わりよりも、俺の存在を確認できる大切なことなんだ。 「斗真、ありがと…」 きゅっと抱きしめられて、耳元でささやかれる。 「…どういたしまして…」 胸元に擦り付いたまま答えると 「お前、まだイってないだろ? ほら…俺もしてやるから…おいで…」 「イヤだ。このままこうしていたい。 ぎゅうって…抱きしめててほしい。 …明日、兄貴達が帰った後に…俺を…愛してくれ……」 希は驚いたような顔をしたが 「斗真、何てかわいいんだ! そんな いじらしいこと言われたら…我慢できなくなっちまう…」 「“かわいい”は止めろ。 それ以上言うなら…明日はナシだな。」 ぐっ と言葉を飲み込んだ希は、無言でぎゅうぎゅう抱きしめてくる。 「誰かがいるところでなんか…嫌だ。」 「うん、わかってる…わかってるから… あぁ…斗真…キス…キスさせて?」 「一回だけな。」 えーーーっ…と抗議の声を上げる希に 「嫌ならやらない。」 と言うと、渋々ちゅっ とキスをして離れた。 『拷問だ』『斗真のいけず』『お預けは嫌だ』 等々、散々悪態をついていた希は、諦めたのか やっと大人しくなった。

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