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第552話

希の声と…誰かの笑い声がする… 女…女っ!? 頭から冷水を浴びせられたような気分で、動悸が激しくなった。 希が女を連れ込んだ!? 誰だ? 聞き慣れた男の声もする。 ボンヤリした頭を無理矢理フル回転させて、ハタと思い当たった。 亜美さん!それと俊兄! 希、ごめん! 一瞬でも希を疑ったことは、俺の胸の内にひっそりと鍵を掛けて内緒にしておく。 心の中で謝りながら、目を擦り擦り声がするキッチンへ向かうと 「おっ、寝坊助!おはよう。やっと起きたのか。」 「斗真君、おはよう!ごめんね、お休みに。」 「斗真、おはよう!今、起こしに行こうと思ってたんだよ。」 「…みんなおはよう…朝から元気だな… その様子だと…仲直り、した?」 俊兄と亜美さんは顔を見合わせて微笑むと 「斗真、騒がせてすまなかった。 あれから亜美とじっくりと話して…自然に任せることにした。 そういう目的だけで愛し合う訳じゃないからな。 それに、これからは子育てにも堂々と協力することにした。 希にも迷惑かけて悪かった。申し訳ない。」 俊兄が深々と頭を下げた。 俺と希は口々に 「そんなのいいから!」 「頭下げるの止めてくれよー!」 等と言いながら亜美さんを見ると、ほんのりと頬を染めて幸せそうに笑っていたが、急に畏まった顔になると 「希君、斗真君。 本当に迷惑かけてごめんなさい。 そして、本当にありがとう。」 とこちらも深々と頭を下げた。 「あー、もう、水臭い! もういいから、ご飯食べようよ! ご飯冷めちゃうよ!」 希がそう言うと、やっと顔を上げた二人はまた顔を見合わせて微笑み、なんとも甘ったるい空気に包まれた。

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