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第554話

んっ…擽ったい…んふっ…胸、触んなって。 …あっ…もう、止めろよ… 「……ま、斗真…」 「……ん……」 ゆっくりと戻っていく意識。 引き戻された意識が急浮上していき目を開けていくと、薄っすらと見慣れた輪郭が見える。 「斗真、やっと起きた。」 目の前でうれしそうに微笑むのは俺の伴侶。 「…今、何時だ?」 「お昼過ぎた。一時だよ。」 一時間どころじゃない。三時間も寝てたのか!? 希を見ると、ふにゃり と笑っている。 「ごめん。一時間どころじゃなかったよな 待っててくれたんだろ?」 頭をくしゃくしゃと撫でてやると 「…待ちくたびれて、ちょっと…触った…」 ん?『触った』!? ひょっとして、さっきの……… 「…胸、触ってた?」 くふん と得意気に頷いた希の頭を(はた)いた。 「痛っ!何で叩くのっ!? …一時間だけって言ってたくせに… 出来るだけ寝かせてあげようと思って、そうしておいたのに…斗真、全然起きてくれないし…」 涙目になって俯いてしまった。 そっか、そうだよな。 うん、約束を二重に破った俺が悪い。 希のワクワクを悉く打ち破った俺が悪い。 地獄に行ったら針千本飲まされるよな。 起き上がって、そっと希を抱きしめ、頭を撫でてやった。 ぴくりと希の身体が跳ねた。 「叩いてごめん。それと二度も約束破ってごめん。 お前の望むようにしていいけど…お腹空いた。 何か食べないと、たっぷり出来ないだろ? …何か食わせろ。」 希が満面の笑みを浮かべ、俺にキスすると 「もう、用意してあるんだ!コーヒー入れてくる!」 といそいそと着替え、部屋を出て行った。 その姿を見て『手の平で転がされる単純馬鹿』と思ったことは絶対に言わないでおこう。 笑いを押さえながら、俺も着替えて希の後を追い掛けた。

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