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第558話
ズルい、ズルいよ、希。
抱きしめられるだけで
キスされるだけで
耳元でささやかれるだけで
脳みそが溶けてしまいそうになる。
次第に緩む抵抗に気を良くした希は、身体中を撫で摩る愛撫の手を背中に回してきた。
すーっと上から下へ背骨を撫でられて、仰け反る俺の喉元に吸い付かれた。
「…くっ…跡、付けるな…っ…」
「…大丈夫…明日には消えるから…」
「ばっ、ばかっ!こんなとこ消えなかったらどーすんだよっ!
こんなの、丸見えじゃないかっ!」
「…だから、大丈夫って言ってるだろ?」
怒り心頭の俺を宥めるように頬を撫でられた。
涙目で睨む俺にキスをすると
「…大丈夫だから、怒らないで…」
と優しく耳元でささやかれるが、ワザと嫌なことを仕掛けてくる希を許せなかった。
「何で?何で嫌がることワザとしてくんの?
イジメ?俺のこと嫌い?
希の…希のばかぁっ!!!」
さっきまでの甘々なムードは何処へやら。
希を突き飛ばしベッドを飛び降りて、自分の部屋に鍵を掛けて籠城する。
何で俺の嫌がることするんだろ。
ワザと嫌われようとしてる?
やっぱ女の方が良かった?亜美さん見て女の方がいいと思った?
朝だって仲良くキッチンに立ってたもんな。
訳の分からない感情が、ぐるぐると巡って涙が出てきた。
ドンドンドン ガチャガチャガチャ
斗真っ!
斗真、開けろっ!
ごめん!そんなに嫌だとは思わなかったんだ!
ワザとじゃないんだ!
絶対跡は残らないからっ!
こめん!
斗真、ごめん!開けて!
布団を被り聞こえないフリをする。
知らない。
希なんて知らない。
別れて…やるっ。
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