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第561話

俺の元にすっ飛んで来た希は、俺の身体をあちこち摩りながら 「気分は?大丈夫?お腹空いてない?」 と矢継ぎ早に問い掛けた。 その温かな手をゆっくりと拒絶し 「大丈夫。ありがと。」 とだけ返し、洗面所に行った。 胸が…チクリと痛んだ。 「斗真…」 背中越しに呟かれた名前も無視した。 外は仄暗く、ちらりと見た時計の針は夕方の五時を少し過ぎたくらいだった。 この時間ならきっと空室もあるだろう。 後でネット検索しよう。 リビングに戻ると、ソファーに座っていた希が飛ぶようにして駆けて来た。 「斗真、やなことしてごめん。 でも、本当に跡つけてないから! 気分は?大丈夫? 食べれそうならお粥作ってあるから!」 その優しい言葉に、悉く首を横に振って 「構わないでくれ。大丈夫だから。」 「斗真…」 不穏な空気を察した希は、俺を抱きしめると 「斗真、謝るから。イジメとかじゃないから! 嫌な思いさせたのは謝る。ごめんなさい。 だから、そんな顔して俺を見ないで…」 そんな顔?俺、今、どんな顔してるんだ? 「別に…もう、いいよ。 ごめん、ちょっと離してくれるかな。」 「斗真?」 力が緩んだ隙に するりと抜け出して、自分の部屋に戻った。 相変わらず甘い匂いは部屋に残っている。 なるべく深く吸い込まないようにしながら、クローゼットからスーツケースを取り出すと、目ぼしいものを詰め始めた。 粗方詰め終わり、携帯で検索をかける。 『◯◯駅付近のホテル』っと… 出てくる。出てくる。 条件を入力して、新しくて小綺麗そうなビジネスホテルを選んだ。 予約もオッケー。 さて、出掛けるとするか。

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