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第562話

重いスーツケースを持って部屋を出ると、希が驚いた顔で、俺の顔とスーツケースを交互に見た。 「…斗真…何やってんの?その荷物、何?」 「…しばらく頭冷やしてくる。 このまま一緒にいたら酷いこと言いそうだから。 …それに、俺がいない方が都合がいいだろ?」 捨て台詞のような言葉を投げ付け、玄関に向かおうとした。 「ちょっと待てよ。」 低い声とともに、腕をぐいっと引っ張られた。 「何勝手なこと言ってんの? 確かに俺はお前にとって嫌なことした。 それについては謝ったはずだ。 それなのに、お前はそのことに対して何も言ってくれない。 『都合がいい』ってどういうこと? 具合も悪いのに出て行こうとする理由を教えて。」 俺は「今更何を」と呟いてから 「俺の嫌がることを平気で仕掛けてくる無神経さに腹が立ってる。 それと… やっぱりオンナの方がいいんだろ? 俺は…どうひっくり返っても立派なオトコだからな…」 「だから、しつこくキスマークを付けようとしたことは悪かったと思ってるし、実際には跡が残らないように手加減した。 無神経…そこまで言うんなら…もう二度としないように、気を付ける。 オンナ? 何で今、そんな話になるの? 俺は斗真以外いらないって何度言えば信じてもらえるの? 俺の胸と頭を切り開いて見せれば信じてくれるの?」 希が俺のスーツケースを引ったくった。 「意味がわからない。 …とにかく、立ったままじゃ話ができない。 こっち来て座って。」 引きずられるようにしてソファーに連れて行かれる。 力では希の方が上だ。 抵抗も虚しく、希の横に座らされた。 少し低めの声で問いただされる。 「斗真、説明して。」

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