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第563話

説明?何を? 俯いて黙っていると、横から大きなため息が聞こえた。 「…斗真…“思ってることは何でも言葉にしよう”って、二人で決めたんじゃなかったか? 黙っていたら、お前の心が分からない。 俺が何をしてお前を傷付けたのかも分からない。 特にその『オンナ』ってどういうこと? 俺が浮気したとでも思ってんの? …あり得ない。」 不意に今朝の“あの”光景が浮かんだ。 ぶわりと滲んだ涙を見て、希が慌てだした。 「とっ、斗真?何で泣くの? 俺、怒ってるんじゃないからっ! ね、どうして?」 オロオロと俺を抱きしめる希。 何とも説明のしようがなくて、ただ悲しくて俺は両手で顔を覆い、ひたすら泣いた。 希は俺が泣き止むまで、長い時間を掛けて背中を摩ってくれていた。 「…水、持ってくるから待ってて。」 希がペットボトルの蓋を開け、差し出してきた。 それを素直に受け取り、喉の渇きを癒した。 ふうっ… 「…落ち着いたか?」 こくっ と頷く。 わしゃわしゃと俺の髪を撫でると 「…スーツケースの訳、言える?」 こくっ 大きく息を吐いて 「…今朝……お前と亜美さんが…………」 「うん。」 「…並んで、ご飯を作ってて。」 「うん。」 「…それが妙にしっくりきてて…それ見てたら、希の隣に並ぶのは、あんな女の人なんだ って思えて。」 「……………」 「…オマケに、お前は俺の嫌がること、平気でしてくるし。」 「それはごめんって。」 「誰かに見られたら揶揄われる。それが嫌なんだ!」 「わかった。ごめん。」 「…頭にきて自分の部屋に戻ったら、亜美さんの香水の匂いが充満してて…それ嗅いでたら、『希の横に並ぶのはお前じゃない』って、知らないオンナが主張してるような気がしてきて… だんだん気持ち悪くなってきて…吐いた…」

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