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第572話

希は俺に覆い被さり、抱きしめてきた。 耳元で「ごめん、ごめん」と謝りながら。 擽ったい。止めろ。 謝るくらいなら最初からやるなよ。 調子に乗りやがって。 何でも俺が許すと思ったら大間違いだからな。 しばらくぎゅっと俺を抱きしめていた希は 「…斗真を苛めたくって堪らない… 反応がいちいちかわいくって。 でも…嫌だよな…ごめん、斗真。」 「…やっぱお前、ドSじゃんか…」 「だから、ごめんって。」 俺は希を横に転がすと起き上がった。 「斗真!?」 「今日はもう止めた。そんな気分じゃなくなった。 悪い。俺、寝るわ。」 畳んであったスウェットに着替え、ベッドサイドに落ちた服を拾い、片付けた。 そして呆気にとられる希に背中を向けて、さっさと布団に潜り込んだ。 布団越しにずしりと重みが加わった。 「斗真…ごめん、ごめんって。」 「…今日二度目だよな、俺がヤなことしてきたの。」 「うっ…」 「もう、嫌だ。いちいちそんなことで腹を立てるのも嫌だ。 俺はたっぷり甘ったるく愛されたいんだ。 苛められるのは、もう嫌なんだっ!」 吐き捨てるように叫んで、頭から布団を被った。 俺の部屋に籠もれば良かったけど、あの部屋はまだ香水の匂いが残っている。 …もう吐きたくないからな… 希は俺の肩を揺すり 「斗真…ごめん…ねぇ、反省してます。ごめんなさい。 斗真、斗真、許して…ねぇ、斗真ぁ…」 ウザい。 煩い。 あっち行け。ソファーで寝ろ。 俺に構うな。 マジで反省するまでお触り禁止だ。 学習能力ない奴め。 無言の拒否に希も諦めたのか、ゆっくり部屋を出て行く気配がした。

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