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第573話
しばらくして思い出した。
ホテルのキャンセルしてない!
携帯を掴んでさっき掛けたナンバーを呼び出そうとして止めた。
待てよ…
荷物もそのままスーツケースに詰めてある。
俺がいなくなって、トコトン心配すればいいんだ!
ちょっとした悪戯心がむくむくと顔を出した。
起き上がり、ドアをそっと開けてみた。
希はいない。
何処だ?
バスルームから音がする。
今だ!
慌てて着替えると、音を立てないようにスーツケースを持ち、そっと玄関のドアを閉めた。
ドキドキする。
慌てふためいたって知らねーよ。
取り敢えず、希の携帯に
『一緒にいたくないから今夜は出掛ける。
明日は帰る。』
とだけ打った。
そして駅まで歩いて、コンビニに寄り、あれこれ買い込んで、目指すホテルでチェックインした。
住所…まさか今の住所は書けないだろう…何たって家から十分だからな。
実家の住所、書いておこう。
名前は…ムカつくから旧姓で。
鍵を受け取り、部屋に入る。
至って普通のビジネスホテル。
取り敢えず風呂に入るか。
上半身裸になったところで着信音。
どうせ希だろ。
音量オフにして、さっさと風呂に入る。
あー、気持ちイイー!
まったりと温まって、髪を乾かし、買っておいたミネラルウォーターを飲んだ。
チラリと携帯を見た。
ラインの表示が連なっていた。
まさか、これ、全部?
思わず手に取ってスライドすると…
着信57件
『斗真、どこ?どこにいるの?』
『ごめん、謝るから帰ってきて!』
などという文面がズラリ。
その合間に号泣する犬のスタンプがいくつか。
ため息が出る。
ウザい。
猛省してもらうために、今夜は無視する。
固く決心して画面を伏せ、テーブルに置いた。
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