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第575話
呼吸を整えてゆっくり起き上がった。
下半身丸出しの情けない姿。
部屋に籠る精液の匂い。
はぁ…何やってんだろ…
ティッシュで拭 い、のろりとベッドから下りると手を洗いに洗面所へと歩き出した。
洗いながら鏡を見ると、欲情した男 の顔が映った。
…はっ…ざまぁねぇな…
ため息をついて、べたついた下半身をシャワーで流し、ベッドに戻った。
裸のまま布団に潜り込む。
…携帯が気になって手を伸ばし、画面を立ち上げると、着信の嵐。
怒りを通り越しておかしくなってきた。
バカだ、コイツ。
シーツの上をごろごろ転がり、ひぃひぃ大笑いする。
一頻り笑って落ち着くと、さっきの、心が冷えた感覚が蘇った。
一部分だけ氷が張ったような冷たさ。
そこから全身に冷たさが回っていく。
ぎゅっと自分自信で抱きしめて、胎児のように小さく丸くなる。
希…希…側に…いてほしい…側に、いたいよ…
パアッと画面が明るくなった。
希からの着信だ。
何十回目かの、鳴り続ける無言のコール
拒否と容認、せめぎ合う心…ついに会いたい気持ちが勝った。
「……もしもし」
「斗真っ!斗真…良かった…出てくれた…
何処にいるの?無事なの?お腹空いてない?
…繋がって…良かった…」
俺はただ黙って聞いていた。
「斗真…斗真、聞いてる?何処にいるの?
ねぇ、斗真…会いたいよ…帰って来て…
俺が悪かったんだ。ごめん。謝るから、土下座でも何でもするから、帰って来て、お願い。」
泣きたいのに何だか笑いが込み上げてくる。
嫁に家出された夫のセリフ、そのまんまだ。
まるっきりコントじゃねぇか。
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