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第578話

希が戸惑いがちに俺の名を呼んだ。 「…斗真?」 答えの代わりにぎゅっと抱きしめる。 これだけで分かるだろ?分かれよ。 俺のダンナなんだろ? ふっ…と甘いため息が髪に触れた。 「斗真、許してくれるの?」 微かに頷くと 「…ありがとう…」と髪にキスされた。 そして 「俺も上に部屋取ったんだ…ダブルの。 そっち、行こう?」 手早く俺に服を着せ、勝手に荷物をさっさと纏めると、俺の手を引き予約した部屋に向かって行った。 希は堂々と歩いて行く。 誰かとすれ違ったらどうすんの? 俺の部屋…使ったからキャンセルできない…勿体ないだろ? ドキドキしながら希に引っ張られていく。 カチャ 俺の部屋より広い間取りの落ち着いた部屋。 希は俺の手をそっと外すと、窓側まで行った。 「…綺麗だな…」 ふっと窓の外に目をやると、煌めくイルミネーションと緩やかに動く車のヘッドライトが飛び込んできた。 まるで異空間に飛ばされたような思いに囚われ、思わずぶるりと身震いした。 そんな俺に気付いたのかどうか…カーテンを閉めた希は振り返り 「ちょっと待ってて」 と言い残し、バスルームへ消えた。 そんなのいいのに。 俺を待たせて何してんだよ。 そのまま…俺を探した熱情のまま、俺を…:俺を抱けよ。 喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。 間もなくバスローブを羽織って出てきた夫は、照れ臭そうに俺を呼ぶ。 「斗真、おいで。」 弾けるように希に向かって抱きついた。 まだしっとりと湿っている逞しい胸に擦り付くと、ほおっ…と吐息が漏れた。

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