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第579話

希は俺の頭を優しく撫で 「斗真、ごめんね。」 とささやくと、俺の目尻に溜まった涙を吸い取った。 「俺は斗真を泣かせてばかりだ…ダンナ失格だな… こんな俺でも、まだ…愛してくれる?」 ズルい奴。 俺からは離れなれないことがわかってて、こんなことを言う。 俺様 意地悪 横暴 非道 自分勝手 尊大 自信過剰 傍若無人 横柄 不遜 自己中 …思い付く罵倒の単語がぐるぐると頭を巡り、駆け抜けていく。 悔しくて切なくてもどかしくて…胸がぐっと詰まり、言葉にならない。 希の胸に当てていた手に段々と力が入り、ぎゅっと拳を作っていた。 希は、黙ってそんな俺を見つめていた。 そして… パンドラの箱に最後に残ったのは『希望』だったが、俺の中に残ったのは… 『それでも愛してる』 だった。 希は俺のパンドラの箱を開けてしまった。 認めたくなくてもこれが真実だ。 俺は『希を心から愛している』 紛れもない事実。 惹かれ合い求め合い、一つになる。 希の目を見つめ返し、言い放った。 「…『愛してくれる?』じゃなくて、俺に真っ先に言うことがあるだろう?」 即答で返された。 「愛してる。斗真、お前だけを。」 ゆらりと涙の膜が俺の目を覆い、つ…と一筋頬に流れた瞬間、唇を塞がれた。 ふわりと身体が浮き、そのまま体重を掛けられベッドに押し倒された。 バウンドする身体とギシギシ鳴るスプリングの音。 口付けられたまま、(むし)り取るように次々と服を脱がされ、組み敷かれていた。 電気が煌々と照る室内で、生まれたままの姿を晒す。 バスローブを脱ぎ捨てた希も同じで。 息を乱しながら「電気を切って」と懇願するが、希は聞く耳を持たない。 「斗真の感じる顔を見せて…俺も見せるから。」

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