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第587話
未だ肩で息をする俺の髪を優しく撫でながら、希がおデコに口付けしてきた。
「今、綺麗にするから待ってて。」
声も出せないくらいに疲労して小さく頷くと、希は鼻先にキスを残して行ってしまった。
滅茶苦茶抱きやがって。
悪態をついても、ココロもカラダも満たされている。
はあっ…
やっぱり…離れられない。
希なしでは生きていけない。希の存在を否定すると、呼吸をするだけでも辛い。
そんなことを考えていると、希が戻ってきた。
べたべたになった俺の身体を拭いていく。
抵抗する気も更々なく、目を閉じて黙ってされるがままに綺麗にしてもらっていく。
布団をそっと掛けられる頃には、微睡んで半分意識がなかった。
「お休み、斗真。」
優しいリップ音の後、まだ熱い空気を纏った希がバスルームに消える気配がしたが、もう…そのまま、俺は深い眠りについていた。
翌朝。
背中側の温もりを感じて目が覚めた。
ゆっくりと目を開けると、希の腕があった。
あぁ。
ここは家じゃない。ホテルだ。
規則正しい寝息が後頭部に当たっている。
俺を抱き込む腕をそっと外して、ぎこちない足取りでバスルームへ向かう。
鏡を見てぴくりと身体が硬直した。
襟元のギリギリのラインから無数に散らばる赤い印。
またこんなに付けやがって。
胸元にそっと指を這わせると、昨夜の情事を思い出し、お腹の奥がずくんと疼いた。
ヤバい。
慌てて頭からシャワーを浴びると、もう無駄な抵抗は止めようと、そんな気持ちが湧いてきた。
『アイツに愛されてればいい』
こんな簡単なことを認めようとしないで足掻いていた自分が滑稽で、馬鹿らしくなってきた。
ご機嫌な俺を不思議そうな顔で見つめる伴侶と、時間差でチェックアウトして、俺達の愛の巣へと戻って行き、俺のプチ家出は完結したのだった。
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