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第589話
足りなかった物を買い足して帰宅すると、先に風呂に入る。
こんな時間から何て贅沢な。
入浴剤も入れてゆっくりとバスタイムを満喫していると、物音がした。
え…鍵、閉めてるはず…誰だ?
希?まさか。
音を立てないように浴槽から上がると、バスタオルを腰に巻き、そっとドアを開けた。
…見慣れた後ろ姿。ホッとした。
「…希?」「うわあっ!」
「何でいるの?仕事は?」
テーブルには白い小さな箱。ビンゴ!
「…あの…斗真が怒って帰っちゃったから…
俺、ちゃんと伝えようと思って…その…」
「バーカ。
昔のことなんてどうでもいいんだよ。
いろいろやらかしてるのはお互い様だろ?
それなりに“いい年”に、なってんだし。
嫉妬…もあるけど…そんなこと一々気にするより、この先ずっと二人で愛し合えばいいことだろ?」
「…斗真っ!」
「ばかっ、スーツ濡れるっ!」
「斗真…斗真っ…」
希は濡れ鼠の俺を抱きしめたまま、離れようとしない。
こうなったらもう、気の済むまでこのままだ。
ちゅくっ
唇を食まれた。
片手で俺の腰を抱きしめ、片手で顎を掴み、貪り食らう獣。
ポタポタと落ちる雫を物ともせず、希は俺の唇に吸い付いている。
ばーか…ブランドのスーツがずぶ濡れじゃないか…
それ、お気に入りじゃないのか?
言い掛けた言葉を全て飲み込んで、ひと時の甘い時間に身を委ねた。
口内を散々嬲られて息を乱す俺に、やっと気付いた希は、照れ臭そうに
「…ケーキ、買ってきたから…」
と呟いた。
離れていた間のことをあれこれ詮索しても仕方がない。
行き違いがあったとは言え、それぞれに環境が変わり、お互いの思いを知らずに過ごしてきたのだから。
今、こうやって思いを告げて、二人で一生生きていく約束をして誓って、一緒にいるのだから、それでいい。
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