590 / 1000

第590話

思う存分俺に擦り付いて、びしょ濡れになった希は 「俺も風呂に はーいろぉーっと」 とネクタイを緩め、着ているものを脱ぎ散らかしながらながらご機嫌でバスルームへ行った。 早くクリーニングに出してやらねば…と考えつつ、俺はそれを拾い上げながら、何故か満たされた気持ちになっていた。 さっきまでは嫉妬にかられて、半ばヤケクソで仕事も放り投げて帰ってきたというのに。 人間って、腹をくくれば怖いものなんてなくなるもんなんだな。 変に納得してソファーの背もたれにスーツを置くと、希のワイシャツや下着を持って、俺もバスルームへ向かった。 突然ドアを開け入ってきた俺に驚いた希に 「お前のせいで身体が冷えたからな。」 と、言い捨てて湯船に浸かる。 温もりが、じんわりと身体の芯まで染み渡る。 目を瞑って堪能しているところへ ばっしゃぁーーーん!!! ワンコのように浴槽に飛び込んできた希のせいで、頭からお湯を被った。 「…お前は…また…」 「だってぇー…斗真が…」 すりすりと俺に甘えてくる大型駄犬。 まぁ、いいか。 風呂上がりのビールならぬ、風呂上がりのケーキが俺を待っている。 「上がったら俺の身体を丁寧に拭き上げろ。 で、俺をリビングまで運べ。」 「仰せの通りに…」 びしょ濡れの顔を見合わせて、ぷふっ と吹き出した。 調子に乗ってエッチなことを仕掛けてくる希を上手く交わしつつ、宣言通りに着替えもさせて、リビングへ横抱きで運ばせた。 うん。 調教だ。躾だ。 駄犬にはアメとムチが必要だ。 そう思いながらも、いつもの如く抱かれて啼かされて、ぐったりと力の抜けた身体を構われつつ、『これも幸せの一つか』と思えるようになった俺を褒めてやりたい…。

ともだちにシェアしよう!