592 / 1000

第592話

荷物のチェックを済ませて、夕方の出国に備える。 「斗真!忘れ物ない?」 「うん、多分大丈夫。」 「“多分”って…ま、足りない物はあっちで買えばいいか… 俺は斗真さえいればいいから。」 「何だよ、それ…」 いつの間にか横に陣取って座っていた希に腰を取られ、引き寄せられてキスされた。 「飛行機の中、いちゃいちゃできないから…今のうちに…」 ちゅくっ、ちゅっ 舌を捩じ込んでくる希の肩を押しやって、無理矢理離れた。 「ばっ、ばかっ! 乗り遅れたらどうするんだよっ!」 「だって…斗真が足りないんだもん… ね?あとちょっとだけ…ね?」 吸い付いてこようとする希から逃げて 「それだけで済まないだろっ!? ほら、早く着替えて!支度して! 二十分後には出るぞ!」 むうっ と膨れっ面の希の頬と唇にキスを送り、耳元で「あっちでな」とささやくと、途端に機嫌が直って動き出した。 馬に人参。希にキス。 単純だな。 慌ただしく準備を済ませると、コンセントを全て抜いて、火の元のチェックも もう一度済ませた。 「のーぞーみー、新聞止めたよな?」 「ああ。電話しといたよ。」 「ありがとう。」 これでオッケー。 「じゃあ、行こうか。」 玄関までスーツケースを運び、ドアを開けようとした瞬間、抱きしめられた。 ふわりと香るフレグランス。 そのまま唇を奪われ、それを拒めない俺がいた。 暫く希の胸に抱かれ、その鼓動を心地良く聞いていた。 ふっと我にかえると、悪戯そうな笑顔が目の前にあった。 「ばっ、ばか。何やってんだ。遅れるぞ!」 気恥ずかしさにその手を振りほどくと、背中越しに希の含み笑いを聞きながら、勢い良くスーツケースを持ち直し、ドアを開けた。

ともだちにシェアしよう!