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第593話

乗り換えは一回か。 時差ボケは…ちょっと前から睡眠時間も調整してきたから何とかなるだろう。 希の友人って、俺のことを受け入れてくれるんだろうか… 機上の人となってから、あれこれと頭に浮かぶ不安。 日本にいる間は忙し過ぎて、そんなこと考えている余裕なんてなかった。 そんな俺の思いとは無関係に、彼の地の距離がどんどん迫ってくる。 「ほら、機内食もちゃんと食べて。」 「水分もきちんと。」 「毛布もかけて。」 子供じゃないのに、と少々ウザく思いながらも、構われることに安心しては心を落ち着かせていた。 希は俺の不安を分かった上で、時々俺の手を握ったり身体に触れてくる。 その仕草に『大丈夫』というメッセージを感じて、なるようにしかならないと、腹をくくる。 そうこうしているうちに、十数時間のフライトを終え、フラフラになりながら降り立った。 「斗真、大丈夫か?」 「あぁ…何とか大丈夫だ。」 「早くチェックインして少し休もう。 みんなに会うのは明日にしてあるから。」 「ありがとう。そうしてもらうと助かるな。」 甘えて体力と気力の回復を最優先する。 自分が思うより以上にダメージがあるみたいだ。 無料の送迎バスの一番後ろに乗り込み、少しの時間、希の肩にもたれて目を瞑る。 それだけで、いつもの自分に戻っていくようだ。 すぐにホテルに着いて、チェックインする。 手続きは全て希任せで。 ボーイがトランクをカートに乗せて運んでいく。 その後を指を絡めた俺達が続く。 日本だと肩が触れる距離にもピリピリと気を張っているのに、自分のテリトリーでないせいか、少し大胆な自分に驚きを感じる。 「うわぁ…凄い景色…」 窓に近付くと港と市街が一望できた。

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