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第611話

「そうと決まれば、トーマ! ボストン中を案内するよ!」 明るいユータの声にみんなホッとする。 ユータとマイクは 希がよく立ち寄っていた本屋とか、洋服屋にレストラン。 大学構内のお気に入りの場所…三人でよくつるんで遊んでいたゲームセンター… あちこちと時間一杯連れて行ってくれた。 希は『懐かしい!』『あー…こんなに変わってんだ』とか言いながらも、俺に一々説明してくれて。 店の人達の中には、当時から残ってるオーナーや店員がいて、懐かしそうに気安く声を掛けてきた。 それに応じる希が、俺のことを紹介しては、彼らに祝福を受け揶揄われ、何とも面映ゆい思いをした。 俺を巻き込んで話し掛けてくる三人の様子を見ながら、その時に、その場に一緒にいたような錯覚を覚えた。 希達の、青くさいティーンエイジャーの煌めく時間を僅かながらも共感していた。 その頃にはもう、ユータとマイクにタメ口になってて、昔からの友人のような深い付き合いをしている気になっていた。 この二人は、裏表がない。 初対面の俺でも分かる。 希が心を開く訳だ。 俺も…この二人が大好きになっていた。 一緒に…いたかったな… そんな思いが顔に出ていたのか、希が指を絡めてきた。 「斗真。」 その一言だけで、胸が震える。 きっと希も『一緒にいたかった』と思ってくれているのだろう。 「希…」 俺も名前を呼んで、絡め取られた指に力を込めた。 「あのー…ラブラブのところ悪いんだけど」 笑いを(こら)えながらマイクが言った。 「そろそろ敵陣へ乗り込むとしようか。」 「皆の者、出陣!」 希の答えにみんな吹き出した。 その後、大事件が待っているとも知らずに。

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