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第614話

ジョンにぐいぐい引っ張られてつんのめりそうになりながら、廊下を進んでいく。 「ちょ、ちょっと待って! 何処に行くんだ?待てって!!離せよっ!!」 俺が叫んでも、ジョンはひたすら進んでいく。 この、馬鹿力。 踏ん張って振り解こうとしても、微動だにしない。 掴まれた腕は、ぎりりと締められ、指の先は血が通わなくなってきたのか、急激に冷えていった。 ふかふかの絨毯は靴音すら響かない。 何の目的で? 俺をどうするつもりなんだ? 『離れるな』と言われていたのに。 何があるか分からない。 どうしよう、何処かへ連れていかれてるみたいだが、何が起こるんだろう? 腕を掴まれたまま、問答無用でエレベーターに押し込まれる。 チェックインの波がひと段落したのか、俺達の他に、客はいない。 「離せって!何してんだよ! みんなの所に戻らないと!離せって!」 腕を振り回す俺は難なく壁に押し付けられ、無言で見返された。 俺だって腕力には自信があるのに、コイツは… じわじわと恐怖感に襲われてくる。 上昇するエレベーターの階数を見ていたジョンが、ゆっくりと口を開いた。 「凄い人数だろ? 『ノゾミが帰ってきた』って言うだけで、あれだけすぐに集まるんだ。」 笑っているけれど笑っていない。 『営業スマイル』の比ではない。 目の奥が冷えている。 ぞっとした。 完全に…俺に敵意を持った目だった。 隙を狙って掴まれた手を振り解こうとした。 が、相手の動きの方が早かった。 逆に羽交い締めにされ、口元に何か白いものを当てられた瞬間、ぐらりと視界が反転した。 ヤバい…意識が…のぞ…み……… ガクリと膝が抜け、床に打ち付けそうになる寸前、抱きかかえられたまでは記憶があった。 希…離れて、ごめん……

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