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第620話
ミカと呼ばれていた捜査員が遠慮がちに俺達に話しかけてきた。
「どう?動ける?着替え…必要よね。
少し待って。手配するから。」
そう言うと、何処かへ連絡しているようだった。
視線を左右にやれば、斗真の破れたシャツの切れ端や、おそらくローションだろう、汚されたスラックスや下着が目に入ってきた。
シーツには…点々と血痕がついていた。
斗真はひと言も喋らず、ただ俺にぴったりと身を寄せ、ぴくりとも動かなかった。
俺は斗真を抱き寄せ、髪の毛に、そして顔中にキスをして…斗真だけでなく、自分の気持ちをも落ち着かせようとした。
それでも跳ねる心臓は中々落ち着いてはくれない。
「ノゾミ、トーマ…」
「マイク…手助けしてくれてありがとう…
感謝している。」
「ごめん…俺達がジェニファーの電話に出たばっかりに…
本当にごめん。」
「マイクのせいじゃないよ。
…俺のせいだ。俺が斗真を巻き込んだんだ。
ごめんな、斗真………………」
重い沈黙。
その空気を破ったのは斗真だった。
「…違うよ。希のせいでも、誰のせいでもない。」
「斗真?」
「俺が…希を愛してしまった俺が悪いんだ。
あんなに、みんなに慕われて…希が来ると言っただけで、あんなに人が集まる…みんなの希を。
俺なんかが、希を独占しようとしたからバチが当たったんだ。
…希、ごめんな。」
斗真のあごを掴み、無理矢理視線を合わさせた。
「???何言ってんの?何で斗真が謝るの?
斗真はどこも悪くない!
…また俺との関係を否定するのか?
止めてくれ!
一番傷付いたのは斗真、巻き込まれたお前なんだ!
お前は悪くない!」
ぽろっ
うわぁーーーっ!!!
堰を切ったように泣き出した斗真をもう一度強く抱きしめ、俺も泣いた。
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