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第621話

未だ泣き止まぬ斗真を抱いた俺は、気の毒そうに見つめる視線に気付いた。 「……これを使って。 下着は新しい物だし。シャツとスラックスは私の主人のものだから、遠慮しないで使って頂戴。 今から彼を病院に連れて行って、診察とと…診断書を書いてもらいます。 それと 辛いだろうけれど、事情聴取にも応じてもらいますが…Mr.?大丈夫?」 斗真はゆっくりと顔を上げた。 しゃくり上げながらも、気丈に頷いた斗真を見て、ミカは 「どうしても無理なら、事情聴取は明日でもいいのよ?」 と言ってくれたが、斗真は無言で首を横に振った。 斗真は、一つ大きく息を吐くと、緩慢な動作で俺から離れ、衣服を受け取ると尋ねた。 「…シャワー…浴びてもいいですか?」 ミカは困ったように首を振り 「ごめんなさい。状態のままで。」 ふうっ とため息をつき、諦めた表情の斗真は、ぎこちなく着替え始めた。 俺は、その様子を何かフィルターがかかった作られた画面を見ているように感じ、ただ見つめるしかなかった。 怒りや悔しさ、懺悔に悲しみなんかを通り越して、何とも言えない感情に潰されそうになっていた。 着替えを済ませた斗真がふらついた。 「斗真っ!」 俺の腕の中に崩れ落ちた斗真は、ふっと笑うと 「…ごめん…大丈夫だ。」 無理に笑うな。 お前をこんなに傷付けたのは俺のせいだ。 俺が…俺がアイツらを野放しにしていたから… アイツら…絶対に許さない。 もし起訴されなければ俺がこの手で… 「……希…希?」 斗真の呼び掛けにハッと我にかえる。 「…悪い。歩くから手を貸してくれ。」 俺はその要請を無視して抱き上げ、ミカに『案内して』と目配せした。 俺達は裏口から、用意された車に乗り病院へ向かった。 車中、誰も皆無言だった。

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