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第623話
俺は斗真をしっかりと抱きかかえ、別室へと移動した。
俯いたままで俺に身体を預ける斗真からは、ふわりと嗅ぎ慣れないボディソープの匂いがした。
おそらく…『シャワーを』と願っていた斗真に、ミカが気を利かせてくれたのだろう。
聴取に対する俺の立会いは、斗真のたっての願いで特別に許され、俺はその当時の様子を直接斗真の口から聞くことになった。
斗真にとって、俺に聞かれることはあまりにも屈辱で、言うに耐えないことであったろうに、斗真は俺の同席を望んだのだ。
俺は隣で斗真の腰を抱き寄せ、手を握り。
斗真もそれに応えるように身体を預け、手を握り返していた。
ニックという捜査官とミカに対して、ぽつぽつとその場面を語る斗真は、時折震えていたが、その度に俺は強くそして労わるように手を握った。
「薄っすらと意識が浮上する頃には、両手首を拘束され、ベッドに転がされていた。
ジョンは戸惑う俺に言い放ったんだ。
『俺もパトリシアも、ノゾミをずっと狙ってたんだ。
俺達はノゾミを奪ったお前が憎い。
今までだって、ノゾミに近付く奴らをみんないろんな方法で排除してきたんだ。彼女の提案に乗ったまでだよ。
何たって、彼女のバックには力を持った親父さんがいるからね。
何をやっても事件そのものを握りつぶしてくれた。
今回だって、お前が国外の人間だろうと、上手くやってくれるはずだ。
ずっとそれで成功してるんだから。
お前に愛想をつかせたノゾミに彼女がモーションを掛けて手に入れる。
お前と繋がれば、ノゾミと俺は一体になれる。
そういう妥協案を受け入れたんだ。
もちろん成功報酬は、彼女から今までの倍はいただくけどな。
さあ、楽しもうぜ、トーマ。
ノゾミがどんな風にお前を愛してるのか教えてくれよな。』
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