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第625話

手は使えない。 身体を捻りたくても、ガッチリと押さえ込まれて動けない。 口に入ってる物が邪魔で噛みつけない。 足はジタバタするだけで何の役にも立たない。 頭突きはどうだ? 距離的に厳しいかも。 あれこれ考えてる間に、奴はスラックスのベルトを外し、ジッパーを下ろしたその瞬間… …助かった…夢かと思った。 希の顔を見た瞬間、安堵とともに汚れた俺を見られたくなくて、どうしようもなくて身の置き場がなかった。 希は…自分のせいだと責めるし…マイクも… あれだけ『離れるな』と言われていたのに、俺がちゃんとしてなかったから… 希がみんなから慕われているのは分かってた。 こんな汚い俺は、希に大事にされる価値がない。 …でも、でも…希に捨てられたら、もう、俺は…」 その後の言葉が嗚咽で続かなくなった。 「斗真…そんなこと、俺がする訳ないじゃないかっ! ごめん…こんなに辛い思いをさせて…ごめん… 斗真、愛してるよ。愛してるんだ。」 俺は斗真が愛おしくて愛おしくて、溢れ出してくる熱い思いを止めることが出来なかった。 これ以上ない程に強く抱きしめ、キスをする。 目の前に誰がいようと構わなかった。 ただ、俺のせいで心も身体も滅茶苦茶に傷付いた、俺の大切な、大切な伴侶を包み込みたかった。 『愛してる』と心の叫びを伝えたかった。 ニック達は、泣きながら抱きしめ合う俺達を暫くそっとしておいてくれた。 少し落ち着きを取り戻した頃 「辛いのに話してくれてありがとう。 ひょっとしたら、また話を聞かせてもらうかもしれないが…無理ならそう言って下さい。 隣の部屋にカウンセラーを待機させてるから、お二人で行ってもらえるかな?」 俺達は顔を見合わせ…頷いた。

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