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第626話
流石に犯罪の多い国。
被害者へのアフターケアもしっかりしている。
妙なところに感心しながら、案内された部屋には、優しげな雰囲気の男性と女性が一人ずつ座っていた。
俺達が近付くと
立ち上がり
「初めまして。私はミシェル。彼はダニエル。
どうぞ、掛けて頂戴。」
俺達より少し年上か?
少しハスキーな落ち着く声だ。
俺達は手を繋ぎ寄り添ったまま、ソファーに腰掛けた。
彼女は俺達をじっと見つめると
「大変な目に遭ったわね。身体は痛まない?
話しても大丈夫?」
斗真を見遣ると、真っ直ぐ彼女を見て頷いた。
俯かない斗真を見て、少し…ホッとした。
ダニエルがカフェオレを運んできてくれた。
「サンキュー」とお礼を言うと、ニッコリと微笑んだ。
ミシェルが上司なのか…
「あなた達はすぐに日本に帰ってしまうのよね…こちらに住んでいるなら継続して通うことも可能なんだけど…」
瞬きをして、うーん…と何か考えていたミシェルが斗真に話し掛けた。
「“トーマ”と呼んでもいいかしら?
私達のことも、“さん”抜きで呼んでね。」
「もちろん。ミシェル、ダニエル、よろしくお願いします。」
「マンツーマンがいい?それとも…彼と一緒の方がいいかしら?」
少し戸惑いを見せた斗真は、俺の顔をじっと見つめていた。
俺が背中を撫でてやり、うんうんと頷いたのを見ると、ほおっ と大きく息を吐くと、小さな声で答えた。
「一緒に…全部聞いてほしいから…」
ミシェルが微笑んだ。
「オーケー。
あのね…私も、ダニエルも…あなた達とそれぞれ同じ経験をしてるの。
私はレイプされた側。
ダニエルはパートナーを。
きっとあなた達のその傷を分かってあげられると思う。
だから、思ってること、何でもいいから話してね。」
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