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第628話
後ろ髪を引かれる思いとはこういうことなのか、と変なところで納得しながら立ち上がった俺は、振り向いて斗真を見遣ると、見上げた斗真の心許ない視線と打つかった。
「斗真…」
『大丈夫』という思いを込めて頷くと、斗真も微かに頷いた。
潤んだ瞳が揺れている。
こんな状況で、さっき会ったばかりの女性と二人っきりにしてもいいのだろうか。
斗真は傷付いている。
心も、身体も。
…矢田の時以上に。
俺が、俺が側にいてやらなければ。
でも、俺の側にいたいけれど、それも辛いと言っていた…が、拒絶…はされていない。
俺は、斗真を丸ごと包んでやりたい。
どうしたら、どうしたら斗真を癒してやることができるんだろう。
躊躇いながら一歩も動けずにいる俺に、ミシェルが
「ノゾミ…あなたも一歩…踏み出しましょうか。」
と、力強く語り掛けてきた。
俺はもう一度斗真を見た。
見る間に溜まっていく涙。
再び座り、斗真の両頬を包み込み目線を合わせると、優しくキスをした。
斗真は…抗うことなくそれを受け入れた。
生温かい水滴が、じわりと頬に擦れる。
思いの丈を込めて『愛してる』をキスに替えて送り続けた。
『大丈夫』
…何故か確信した。
斗真は壊れてはいない。必ず俺が守る。
これまでも、これからも。
目と目を合わせ
「斗真…俺はお前を守るためにもっと強くなる。
どんなことがあっても。
俺を…信じて…」
斗真は、しっかりと頷いた。
その目の奥には、芯を持った光が戻っていた。
もう一度キスをすると
「行ってくる。」
そう言って、ダニエルの後を追った。
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