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第629話
招き入れられた部屋は…先程までのミシェルの部屋とは全く違っていた。
ジャングルのように観葉植物が所狭しと並べられ、“ここは何処?”と一瞬戸惑うような空間だった。
ヒーリング曲のような耳に心地良い音楽が流れている。
この香りは…オレンジ?
ところがしばらくすると、何故か心地良さに満たされて落ち着いてくるから不思議だ。
「ダニエル、この部屋…」
「ん?何?変?」
「いや…驚いたけど…今は何故かしっくりくる。」
「あははっ!みんなビックリするんだよー。
“ジャングルーーッ!!”ってさ。
さ、どうぞ。」
用意してくれたのはハーブティーか?
ひと口含むと、甘くて優しい香りが鼻に抜けた。
「ノゾミ…君も自分を責めて辛い思いをしてるんだろう?
『あんな目に遭わせたのは自分のせいだ』って。
あの時の俺もそうだった。」
ダニエルは、恋人が襲われた時のことを話し始めた。
「五年前の落ち葉の季節だった。
仕事帰りに家まであと50メートル…って所で、彼女は三人組の男に襲われたんだ。
帰宅時間を2時間過ぎても帰ってこない、携帯も繋がらない彼女を心配して、警察に届けようかと思っていたところへ連絡があったんだ。
慌てて病院へ駆けつけたんだが…
殴られ顔は腫れ上がり、身体中 包帯でグルグル巻きになっていて…
医者の話では、特に下半身は酷い状態だと。
意識の戻った彼女は『ごめんなさい』って、ただ泣くんだ。
自分は何も悪くないのに。
『私はもう汚れちゃったから、あなたの側にはいられない』
そう言って。」
さっきの斗真の言葉が蘇った。
俺は瞬きすら忘れて、ダニエルをじっと見つめていた。
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