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第630話
「犯人達は前から彼女に目を付けていたそうだ。
すぐに捕まったよ。
近所の大学生だった。
それ相応の法的処置は取られたが、彼女の、俺の受けた傷は二度と消えない。
俺が触れようとすると、その時の記憶が蘇るのか震えが止まらない。
夜中もうなされて、泣きながら目覚める。
彼女だけでない、俺自身も。
彼女は外出もできなくなってしまった。
自信満々であれこれと治療を試みるがダメだった。
今まで勉強してきたことが、全てひっくり返った。
俺がやってきたことは、上っ面の、紙の上だけのことだったんだ。
『このままではダメだ。彼女を救いたい。』
それからの俺は、一つ一つ手探りで、自分なりの治療法を見つけていったんだ。
ミシェルと出会ったことも大きかった。」
「…それで、彼女は…」
「今では俺の側で二人の子供を逞しく育てているよ。」
微笑んでウインクするダニエル。
「ノゾミ、トーマは大丈夫だ。
君を拒まなかった。
手を身体を触れることも、キスも。
以前にも襲われたと言っていたね?
彼は、強い。けれど強いが故に脆い。
トーマを救えるのは、ノゾミ、君だけだ。
何を言われても、彼の側から離れてはいけない。
君達は本当に愛し合ってるから、乗り越えていけるだろう。」
「でも、斗真は俺が側にいるのも優しくするのも『辛い』って…」
「今はまだ、自分を責めてる。
自分の身一つも守れなかった、さっきも言ってたけれど、自分は汚れてしまった、ノゾミに合わす顔がない、そう、思ってるんだろう。
君だって自分のことを許せていないだろ?」
頷くとダニエルは軽く笑った。
「大丈夫。
心の傷は時間が治してくれる。
それは時々疼くけれど、愛する者が抱きしめて受け止めてやれば、その愛が浸透して癒してくれるから。」
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