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第631話

ダニエルは俺の目をじっと見つめながら 「残念だが受けた傷は消えない。だけど、薄れていく。癒すことはできる。 その痛みを共有して埋めてやることがノゾミ、君の役目だよ。」 「俺は、斗真の痛みも苦しみも全て受け止めたい。 斗真に何を言われても、何をされても、絶対に離れない。離れてやらない。」 「『愛してるから』だろ? 一番シンプルな答えさ。」 そうだ。 そうだよ。 俺は斗真を心から愛してるんだ。 愛してるから、絶対に離さない。 ダニエルがそっとティッシュの箱を手渡してきた。 あ… 頬を冷たい物が流れている。 「ノゾミ、泣きたい時は泣いてもいいんだよ。 辛かったら泣けばいい。 泣けばスッキリするから。」 ぽんぽんと頭を撫でられて、途端に涙腺が決壊した。 学生時代の“人気者でいい奴”のままでいたかったこと。 斗真の手を離してしまったこと。 安安と相手の思うツボにハマってしまったこと。 二度も斗真を守ってやれなかったこと。 斗真を傷付けた奴らを責める心より、次々と自分の不甲斐なさが頭に浮かんでは消えた。 情けない。 たった一人の大切な人すら守れないなんて。 それでも、こんな俺でも、斗真を愛している。 これだけは変わらない。 斗真、俺の気持ちは変わらないけれど、お前は? お前はどうなんだ? 斗真…斗真、俺は、お前がどう思っても、お前だけを愛し続ける。 俺から離れていかないで。 お願いだ… 泣きながらダニエルとどの位話したのか。 随分時間が経った気がする。 涙も乾いてきた頃、ダニエルが声を掛けてきた。 「もう一杯カフェオレはどうだい?」 首を横に振って答えた。 「斗真に会いたい。」 「オーケー。様子を見てくるから待ってて。」 脱力してソファーにもたれた。 拒絶されたらどうしよう…心が冷えてきた。 「ノゾミ、おいで。」 ダニエルの呼び掛けに、弾けるようにドアへ向かった。

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