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第632話

息急き切って開けたドアの向こうに。 「斗真…」 俺の呼び掛けに顔を上げた斗真。 微笑みを浮かべた少し目の赤いミシェルと、目を真っ赤に泣き腫らした斗真がいた。 「希…」 立ち上がった斗真は、一直線に俺の胸に飛び込んできた。 ミシェルは斗真にどんな魔法をかけたのか? その身体をありったけの力で抱きしめる。 「斗真…斗真…、ごめん、ごめんな…」 斗真はふるふると首を横に振り、しがみ付いてきた。 その身体は震えている。 「愛してる。だから離れないで。」 びくりと跳ねる身体を更に抱きしめ、もう一度繰り返す。 「愛してる。だから離れないで。」 …くっ……くうっ、くっ… 噛みしめる口元から嗚咽が零れ落ちる。 俺はただただ、声を噛み殺して震えながら泣く斗真を抱きしめていた。 斗真は…泣き止んだ頃には身体の震えもなくなり、俺達は身を寄せ合って受けた傷を共有していた。 そこへノックの音がした。 「どうぞ」 少し顔を出したのはマイクだった。 「ノゾミ、トーマ…大丈夫か?」 「…ありがとう、大丈夫だ。」 そう答えたのは斗真だった。 俺の手をしっかりと握りしめて。 「ジョンとパトリシア、その仲間は全て逮捕して連行した。 家宅捜索も終わったよ。 もし良ければ君達のホテルまで送るけど、どうだい?」 俺達は顔を見合わせて頷いた。 「そうしてもらえるとありがたい。 ミシェル、ダニエル、本当にありがとう。 お世話になりました。」 「いいえ、帰国する前に一度いらっしゃい。 連絡してくれればアップルパイを用意しておくわ。」 涙目の斗真が微笑んだ。 「ミシェル、ダニエル、ありがとう。 二人で顔を出すよ。」 ありがとう、とハグをして部屋を出た。 もちろん手を繋いだままで。 誰もが口を開くこともなく、俺と斗真はぴったりとくっ付いて。 俺は斗真の髪の毛や頬を撫で、斗真は俺のなすがままに身体を委ねていた。

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