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第635話

しん…と静まり返った部屋。 エアコンの空調の音。 微かに廊下から話し声が聞こえる。 斗真がぼそりと呟いた。 「…お腹空かない?」 「本当だ…腹ペコだな。何か頼もうか。 ルームサービス何かあるかな…」 「なぁ、希…」 「んー?何食べたい?」 「いや…こんな時でもお腹って空くもんなんだな…」 ふっ と自虐的な笑いを漏らす斗真の頬を両手で挟み、その目を覗き込んだ。 「『生きてる』から。だから、お腹も空く。 美味いもの食って、抱き合って眠ろう。」 ぽんぽんと斗真の頭を叩き、ファイルをめくってみるが、腹に溜まりそうな物はない。 「確かホテルの前にレストランがあったよな… 斗真、外、出れるか?」 「うん。希がいるから大丈夫。」 「じゃあ、メシだけ食いに行こう。」 斗真の手を取り連れ出した。 信号を渡り、目当てのレストランへ向かう。 こんな時間でも人通りは多く、賑やかだ。 ちらちらと斗真の様子を見るけれど、表面上はいつもと変わりはない。 程良く埋まった店内は、香ばしい匂いで充満し、それだけで口内に唾が溜まってくる。 空いた席に案内され、頭をくっ付けるようにしてメニューを覗き込んだ。 「あっ、これも美味そう…これと、これと… 斗真は?」 「これも美味そう…じゃあ、これ。」 「こっちは?」 「あぁ…でも、そんなに食べれるかな…」 「様子見て後で頼もうか…あー…目移りしちゃうな。」 取り敢えず注文を済ませ、改めて店内を見渡した。 親子連れも多い。 ファミレス的なレストランなのか。 …斗真を見ると、ぼんやりと窓を見ていた。 景色を見ているのか、それともガラスに映る楽しそうに食事をする人達を見ているのか。 「…斗真。」 俺の呼び掛けにゆっくりと顔を正面に向けた。 その目には…涙が溜まっていた。 「斗真。」 「あっ、ごめんごめん。何?もう来たの?」 「斗真。」 「あっ………」

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