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第637話

目の前に注文した料理が並べられていた。 「ほら、斗真!お腹空いただろ? 見てみろよ!すっげぇ美味そうだぜ!」 くいくいっと頭を小突いて、声を掛けた。 斗真はゆっくりと顔を上げ、くんくんと鼻を鳴らすと 「…ホントだ…いい匂い… はあっ…本格的にお腹空いてきた…」 「だろ?熱いうちに食べよう!ほら!」 小皿に取り分けて、それを斗真の前に置かずに箸で摘んで、斗真の口元に差し出した。 「はい、斗真。あーん。」 斗真は目を見開いて俺を見ていたが、くすり と笑うと、大きく口を開けた。 その中に放り込んでやる。 もぐもぐと咀嚼して飲み込むと一言。 「…美味しい…」 俺もひと口… 「うん、美味しい!」 小さな声で、独り言のように斗真が呟いた。 (生きてるから…味がするし美味しいんだよな…) 聞こえないフリをして、頭をくしゃくしゃと撫で 「ほら、これも!」 まるで餌付けをするように、次々と斗真の口に入れてやる。 素直に食べている斗真を見て、少しホッとした。 胃の中に何か入れば少しは元気になるはず。 そのうち、斗真が俺にも食べさせ始めた。 こんな食べさせ合いっこを他人が見たら、『単なるバカップル』としか思わないだろうな。 見る間に皿は空っぽになっていた。 お腹も満たされて、やっと落ち着いた。 斗真の頬にも幾分か赤みが戻ってきていた。 良かった…取り敢えず、ご飯も食べてくれた。 「斗真、まだ食べたいものないか?」 「うん。もうお腹一杯。ご馳走様。」 「じゃあ帰ろうか。」 「うん。」 テーブルのベルを押してウェイターを呼んだ。 紙袋を持って現れた彼に会計を頼み、それを受け取った。 「希、それ何?」 興味津々に覗き込む斗真の頬にキスして答えた。 「帰ってからのお楽しさ。」 “それ”が何かに気付いた斗真は、うれしそうにくふんと笑った。

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